実践プロセス
ウェブアクセシビリティを実現するための実践プロセスを、サービス開発と広報活動の2つの観点から解説します。
サービス開発における実践プロセス
情報システムにおけるサービスを企画・開発する場合には、ウェブアクセシビリティを当初から想定に入れる必要があります。政府のシステム調達においては、JIS X 8341-3:2016のAA準拠を目標に決めるのが標準的な対応です。
サービスを作るときの基本的なプロセスと、決めなければならないことの基本原理は、「Problem Fit(課題の発見)」から「Solution Fit(解決策の決定)」、「Market Fit(経済合理的か、運用できるか、社会への適合性があるか)」へと、小さい取り組みから大きな取り組みへと、反復的に課題解決を繰り返して、プロジェクトを成長させていきます。
企画
サービスの全体像をわかりやすく提示する。カテゴリや機能をできるだけシンプルに絞り込む。利用者像や利用像、解決するべき課題、そしてこれらのスコープがどの程度明確に定まっているのかを検討する。
チェックポイント:
- ユーザー像、利用シーン、課題、スコープを明確にする
- 手元に十分な材料があるか確認する
- 関連して利用されるサービス・アプリがないか
- サービスがどのようなデータ、他システムとの連携を必要とするか
- 法令・規約上の制約事項がないか
- 初年度は企画検証、翌年度は本実装など、段階的な調達を検討する
調達
サービス(システム)の開発スコープが定まったら調達。調達仕様書に記載すべきポイントを明確にする。
チェックポイント:
- システム要求事項として、明確にユーザビリティ・アクセシビリティに関連した機能要件・非機能要件を盛り込む
- 業務仕様に、利用者像・利用像の明確化計画、解決策の導出計画、各フェーズでのテスト計画・実施を盛り込む
- 人員計画に、適切な人材(デザイナー、ウェブアクセシビリティの専門家)をアサインし、実効性の高いチーム体制を構築するよう求める
- プロトタイピングツール、検証ツールを用意する必要がある場合、どのような機能要件を満たすツールを用いるべきか明示する
- 調達仕様書に適合レベルと対応度を記載する
設計・実装
利用者像や利用像、解決するべき課題、スコープを明確化した上で開発を進める。
サブステップ:
- アイディエーション(解決案の提示)
- ワイヤーフレームの作成
- ワイヤーフレームを用いたユーザビリティとアクセシビリティの検証
- 詳細デザインの作成、詳細仕様の検討(デザイン上のUIコンポーネントの作成、ガイドライン化)
- 静的なUIプロトタイプの実装
- プロトタイプを用いたアクセシビリティテスト
- テストを受けての仕様改修
- 本実装
- 結合テストと並行したアクセシビリティの試験
実装時のチェックポイント:
- セマンティックなHTMLにすることが大切
- アイコンは実装方法に関わらず代替テキストを設定できるようにする
- モーダルダイアログ、アコーディオン開閉、ハンバーガーメニューはキーボードでも操作できるようにする
- 動的なUIを使うときは、フォーカス位置の調整も必ず行う
- 視覚的に隠している要素はスクリーンリーダーからも読み上げられないようにする
テスト
正式なウェブアクセシビリティの試験を実施する。一般的に1ヶ月程度の時間が必要になる。
チェックポイント:
- チェックツールによるチェックの実施
- 全体の構造が、逐次読み上げ・操作をスクリーンリーダーで行った際に理解しやすいものになっているか
- スクリーンリーダーで操作不能になる箇所の洗い出しと対応方針の確定
- パソコンで読み上げ確認をしてみる
- スマートフォンでの読み上げ確認
リリース
試験結果を集計し、対応度を判定する。すべてのページですべての達成基準に適合していれば「準拠」、どれか1つでも達成基準に適合していない場合は「一部準拠」となる。
広報活動における実践プロセス
ホームページでの広報やプレスリリースなどで情報を発信する際にも、発信するコンテンツが適切に多様な利用者に届けられるものになるよう配慮を行う必要があります。
一般的な広報プロセス
企画(原稿、発信手段のチェック)
原稿を確認し、ウェブアクセシビリティ上の課題がありそうなポイントを確認したら、必要な対応と工数を見積もる。
チェックポイント:
- 代替テキストの作成が必要になるイラスト、図表の洗い出し
- イラスト、図表が複雑すぎるものになっていないか
- PDF、スライド等の資料が適切なフォーマットになっているか
- 動画配信を予定している場合、字幕や手話通訳をつけることができるか
- SNSで発信する場合、画像にどのような代替テキストを付与するか
修正(原稿の修正、図表等の最適化、代替テキストの付与)
複雑な図表が含まれる場合は、なるべくシンプルな表現に作図し直し、本文で書き改める形で対応できないか原課と調整を行う。
発信
ウェブアクセシビリティ対応を広報発信プロセスに組み込む。
動画・ライブ配信プロセス
企画
配信内容のアクセシビリティ対応を計画する。
事前準備(字幕の作成、手話通訳の手配)
書き起こした文章(トランスクリプト)を字幕として提供する。手話通訳を手配する。
配信(字幕の提供、音声認識の修正)
字幕の提供、音声認識技術を用いた字幕書き起こしの修正をリアルタイムで行う。
広報コンテンツにおけるアクセシビリティの原則
- ロゴ・写真・イラストなどの画像に、その画像が指し示している情報を代替テキストとして指定する
- 音声にキャプションを、動画にキャプションと音声解説を追加する
- 赤字・太字・下線・拡大のみによる一部強調などを用いてはいけない
- 見出しだけで、セクションやブロックに含まれる情報を表現する
- 文字と背景の間に十分なコントラスト比を保つ
- リンクを適切に表現する
- 音声・映像コンテンツに代替コンテンツを付与する
調達仕様書への記載
情報システムやウェブサイトのウェブアクセシビリティを一定水準に保つために、調達時にウェブアクセシビリティの基準・試験方法・結果の記載方法を定めて示す必要があります。
主要な成果物
| 成果物 | 説明 |
|---|---|
| ウェブアクセシビリティ方針 | 対象範囲と適合レベルを最低限必要な項目として記載。公開することで利用者からもウェブアクセシビリティの状態がわかる。可能な限り企画や開発を行う前に作成する。 |
| 実装チェックリスト | 公開しなくてよい中間資料だが、納品物として納めてもらうか、検証結果を作成する前に発注者が確認することで試験結果の具体的な内容を把握することができる。 |
| ウェブアクセシビリティ検証結果 | ウェブアクセシビリティ方針と同様に公開を推奨。WAICが公開している対応度表記ガイドラインに則って書くことで、基準に沿って試験がされていることが第三者にもわかるようになる。 |
試験に必要な知識
- JIS X 8341-3:2016の理解
- WCAG 2の解説書と達成方法の理解
- HTML、CSS、JavaScriptの仕様の理解
- スクリーンリーダー、拡大機能などの支援技術の理解と操作
- ウェブページやサイトの実装経験
- JavaScriptのライブラリとフレームワークの理解